NPOあつぎみらい21の「かながわ Business Network」 2025年4月号 Vol.172
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NPOあつぎみらい21の「かながわBusiness Network」
2025年4月号 Vol.172
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こんにちは、NPOあつぎみらい21「かながわ Business Network」
編集部です。
桜前線は東北を駆け抜け、北海道に達したようです。天気と花便・仕事の折
り合いは中々難しいところで、今年計画していた桜の名所は来年以降に持ち
越しなりました。
さて、今月の内容です。
1.<経営講座> ■【時代と共に変わる建設業界の元請と下請の力関係】
2.<活動報告> ■【ゴーヤで緑のカーテン作り】
3.<経営情報> ■【各種セミナー情報】
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1.<経営講座> ■【時代と共に変わる建設業界の元請と下請の力関係】
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▼始めに・・・
当ブログを読んで下さっている皆様は、建設会社の元請と下請の価格交渉
などにおける力関係を、どのようにお感じでしょうか?
そもそも建設業界における元請とは工事を発注する立場の建設会社を指し、
下請とは元請から工事を請負う建設会社を指します。重層構造になり易い建
設業界において、例えば元請は下請を選ぶことが容易で、下請は常に元請に
従うものと思われがちかもしれません。しかし、時代によってその関係性は
変わってきます。私が経営コンサルタントとして建設業界に関わるようにな
ってからの時代に加えて、建設会社に勤めていた時代や上司や先輩などより
お聞きした社会人になる前の時代の情報も加えてお伝えしていきたいと思い
ます。
▼時代と共に変わる元請と下請の力関係
元請と下請の力関係は時代と共に変わってきたと感じています。それは、需
給バランスや予算の多寡、労働力や施工力の大小などに影響されているように
思います。時代と共に変わる元請と下請の力関係を振返っていきましょう。
1.バブル時代(凡そ1985年~1990年)は下請業者も羽振りが良い時代
筆者は高校生から大学に入学した頃なので、この時代の内容は上司や先輩、
建設会社の年上社長などから聞いた情報になります。バブルの頃は、元請はも
ちろん下請の専門工事業者も羽振りが良く、十分な単価で工事が受注できてい
たとのこと。接待交際費なども現在以上に使用することができ、グレーな支出
も沢山あったとのこと。その分、下請け側の受注の仕方や現場での工事の進め
方などにも影響があったことも想定できるでしょう。元請と下請の力関係が対
等だったとは思いませんが、ある程度お金の流れで解決していた雰囲気も感じ
られます。実際に体験した情報で無いため曖昧な書き方で済みません。
2.バブル崩壊からアジア通貨危機(凡そ1991年~1998年)に工事高はピー
クを迎え、その後は単価も右肩下がり
筆者が大学を卒業し、建設会社に入社したのは1995年でこの時代の最中でし
た。バブルは崩壊していましたが、建設投資のピークは1997年でしたので、建
設業界の中でも工事高にばらつきがありました。民間からの受注が8割を占める
建築工事中心の建設会社は早い時期から業績は厳しく、国や自治体の設備投資
は増えていたので公共からの受注が8割を占める土木工事中心の建設会社は長く
持ちこたえていたと思われます。それでも、建設投資額が右肩下がりになる中
で、建設会社の数は逆に増えていた時期もありましたので価格競争に突入して
いました。筆者が勤めていた建設会社はマンションなど民間工事が中心でした
ので工事現場数は減少傾向にありました。下請けへの発注単価や金額も下げる
ことを上司に指示され、購買課を立ち上げて現場と協力業者との関係を断ち切っ
たり、グロスでの発注で値下げしたりしていました。下請も受注するためには
値下げするしかなく、元請と下請の関係は大きく変わってきたように思います。
3.ITバブルから崩壊、及びいざなみ景気(凡そ1999年~2008年)
1999年頃から10年程の間に、ITバブルやいざなみ景気といった景気が好調
な時期がありました。しかし、建設投資は概ね横ばいか右肩下がりでしたので、
それらの景気の恩恵を大きく受けていたようには感じられませんでした。一時
期、筆者は建設業界を離れてIT業界にいた期間がありましたが、IT業界と建設
業界とでは景気の恩恵に違いがあることを感じていました。ゼネコンなどの建
設会社を含めた民事再生手続きを行った件数は、2000年代前半は非常に多く、
リーマン・ショックが生じた2008年よりも多かった〔岩崎保道・「≪査読付研
究ノート≫民事再生手続による学校法人再建の可能性」(図表1 民事再生
手続の推移)より考察〕。元請会社が民事再生で負債を減免され、工事代金が
回収できず倒産や多額の損失、資金繰り困難となる下請業者も少なくありませ
んでした。民事再生で財務体質が改善され、経営事項審査の点数が上がること
で入札でも有利になるといった制度上の問題が懸念されるようになったのも、
この時期だったと思います。それだけ下請にとっては厳しい時代だったと思い
ます。建築一式や土木一式といった建設業許可を持っている元請の会社数は減
少する一方、下請けとなる専門工事業者はそれほど減っていない。恐らくです
が、専門工事業者が倒産・廃業すると従業員だった方々が同じ工種で独立する
ため業者数は同じか増える。それだけ競争が激しくなるといった流れになって
いたようです。
4.リーマン・ショック後(凡そ2008年~2010年)は建設業界の冬の時代
筆者が建設会社の経営コンサルタントとして独立したのは2010年2月ですの
で、まさにこの厳しい時代でした。リーマン・ショックで建設需要が落ち込ん
だのに加えて、「コンクリートから人へ」をマニュフェストに掲げた民主党政
治のせいで建設業界の職人たちは壊滅的な影響を受けました。公共投資予算が
減少したため、まずは土木会社やそれに関連する下請工事業者は大変厳しい状
態になっていました。設計単価の減少に加えて、落札率の下限がとても低くなっ
たり、下限が無かったりする場合もありました。その結果、公共工事を落札し
ても利益が取れず、そのしわ寄せは下請に及びます。事業を続けるために赤字
で受注せざるを得ないという状況が続いていました。建築会社も不況に伴う建
設投資意欲の減少で、元請・下請ともに厳しい状態となっていました。ただ、
総務省の労働力調査によると、建設業の就業者数をリーマン・ショックとコロ
ナ禍で比べると、前者では54万人減、後者では13万人減で、リーマン・ショッ
クの影響の方が大きかったようです。それだけ、民主党の政治も人を大切にし
た政策では無かったということの現れでしょう。
5.東日本大震災後(凡そ2011年~2019年)の復興需要
東日本大震災後は、地域差と復旧・復興の進み具合で大きく変化していた期
間でした。特に、土木工事への予算配分が多かったことは想像し易いかと思い
ます。国土交通省の復興予算は東北地域に集中し、他地域の自治体の予算が何
故か縮小していた地域が少なからずありました。震災地域の土木会社はバブル
の状態で、除染関係の業務のため全国から作業員を集めて、特に福島県に参入
してくる他県の土木会社もありました。その復興予算の中では、土木工事や建
築工事などの公共投資(住宅再建・復興まちづくり予算など)は2012年度をピ
ークに減少に転じ、コロナ前の2019年には1/4にまで減少しました〔復興庁
「令和5年度東日本大震災復興関連の執行状況について」より〕。
復興需要前半期は、スーパーゼネコンはもとより、地元の土木会社も元請で受
注したり、JVの構成員として関わっていたりしたため利益が確保し易い状況
でした。下請で関わる土工事業者なども受注単価が上昇し、安定して工事があ
ったため余裕がありました。しかし、復興需要後半期になると予算と事業者と
の対比が逆転し、厳しくなる土木会社も増えてきました。特に下請業者で安定
して工事が確保できていないところは十分な単価で受注することができず厳し
かったようです。
一方、復興需要の恩恵を受けられない他地域の土木会社や建築会社、下請の専
門工事業者などは厳しい時期が続いていました。震災直後の建設投資意欲の落
ち込みや地域自治体の建設事業費の抑制、リーマン・ショックからの回復遅れ
なども影響していたように思います。特に下請業者は職人を雇用し続ける余裕
がなく、専属ではあっても個人事業主に契約を変更する工事業者は引き続き増
えていたように思います。
6.コロナ禍及びウッドショック期(凡そ2020年~2023年)は
下請の負担が増加
コロナ禍の特に初期の頃には、ゼネコンの現場などで罹患者が発生すると現
場が止まることも度々ありました。建設会社の従業員であれば職人であっても
雇用調整助成金の対象になったので、日給月給であっても給料は支払われてい
ました。しかし、一人親方などはそういった保証もない中で現場が止まるので、
収入が減る状態となっていました。しかし、元請にその苦情を伝えても聞き入
れられることは皆無で、下請けの立場の弱さが露呈していました。そんな中で、
支援していた型枠工事業者は減少した現場への職人の配置で、雇用している大
工を休ませ雇用調整助成金で給料を補填し、一人親方を現場に入場させていま
した。会社としては助成金で賄えない給料との差額分は損失になりますが、一
人親方の生活を守るために行っていた手筈であり、コロナ回復後を見据えた素
晴らしい判断だと思っていました。
また、ウッドショックなど建材価格が高騰した時期は、高騰分の負担を下請
けが被っていた時期もありました。材工で受注していた下請がその建材の高騰
分を交渉しても受け入れてもらえないことがほとんどだったように思います。
7.物価上昇中の現在(凡そ2024年~現在)
2024年10月の働き方改革やそもそもの職人不足などが影響して、施工に必
要な職人を集めるのも困難な状況になってきました。無理に発注金額を抑える
と職人が他の業者と取引するようになり、施工が進まなくなります。2023年
11月に公正取引委員会が公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関
する指針」の影響も徐々に出始め、スーパーゼネコンや大手ハウスメーカーを
始めとする規模の大きな建設会社ほど発注金額の見直しを進めています。始め
は材料費の見直しだったものが、徐々に労務単価の見直しへと変わってきまし
た。公共工事の設計労務単価が上昇傾向にあることも影響しているかもしれま
せん。先日お会いした解体工事業者の社長が話されていたのですが、20年程前
の創業時にお世話になった工務店の値下交渉が厳しく、1∼2年前に受注を控え
るようにされたとのこと。ハウスメーカーなど単価改善が見込める先が増えた
こともその決断に至った要因でした。それが、工務店から再び連絡が入り、下
請けの解体工事業者の価格を尊重して発注すると言われたとのこと。恐らくで
すが工務店の価格設定では解体工事業者が見つからず、昔ながらの知り合いを
再び頼ってきたということだと思われます。元請と下請との力関係ですが、職
人を多数抱えていて、機動力高く動ける下請の専門工事業者が力を発揮できる
時代になってきたということ
でしょう。
▼まとめ…
1990年代前半のバブル崩壊後30年間、建設業界の下請業者は価格交渉にお
いて大変厳しい時代が続いていました。その状態にも変化が訪れ、近年は元請
に対して適正な価格での交渉がし易い環境となっています。しかし、良いこと
ばかりでは有りません。受注金額が上がっても人材不足で職人がいないため、
受注したくても施工できず、人材が確保できる専門工事業者でないと売上が伸
ばせない。それぞれの時代で変化する外部環境にどのように対応できるか。時
代の変化もしっかりと把握しながら、適切な経営コンサルティンが行えるよう
中小企業診断士としての知見を高めていきたいと思います。
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Writer:加藤仁史(中小企業診断士/ITストラテジスト/1級建築施工管理技士)
建設会社の事業を伸ばすシステム経営を支援する。株式会社GCコンサルティング
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2.<活動報告> ■【ゴーヤで緑のカーテン作り】
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ゴーヤの種を事業者の方にお配りして13年が経過します。
事業者の方からは、沢山の収穫があり、従業員に配布したことや、土を入れ
替え お水をたっぷり上げたので小粒ですが沢山の収穫があったことを伝え
てくれます。
ゴーヤの種を植え、芽が出るのを待ち、成長を見守るというプロセスは、私
たちに喜びや達成感をもたらしてくれます。また、育てる過程の水やりや、
実の収穫の楽しみもあり、ゴーヤを使った料理をいろいろ工夫するのも良い
ですね。
ご希望の方には、事業者名・担当者及び住所を記載してメールでのご連絡を
して頂ければ、郵送致します。
暑い夏をぜひ、ゴーヤでお楽しみ下さい!!
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ゴーヤ担当 守谷 喜芳
E-mail moriya-ki@kdt.biglobe.ne.jp
住 所 海老名市東柏ヶ谷5-10-3
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3.<経営情報> ■【各種セミナー情報】
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▼ その他のセミナー・講演情報
厚木商工会議所 セミナー/イベントのお知らせ
http://www.atsugicci.or.jp/category/seminar/
相模原市産業振興財団 セミナー/イベントのお知らせ
http://www.ssz.or.jp/event
川崎市産業振興財団 セミナー/イベントのお知らせ
http://www.kawasaki-net.ne.jp/seminar.html
横浜商工会議所 セミナー・講習会のご案内
http://www.yokohama-cci.or.jp/event/
川崎商工会議所 セミナー・講演会スケジュール
http://www.kawasaki-cci.or.jp/event/index.html
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■ 編集後記
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トランプさんの発言で、市場が右往左往していますね。そして、トランプ
さん自身も、市場の動向に右往左往しているみたいです。素人は動けません。
では、次回のメルマガもお楽しみに。
本メルマガは、GoogleGroupで発行しております。GoogleGroupは本来
メーリングリスト機能のサービスですが、読者の投稿はできません。
メンバも当然非公開としています。ご安心ください。
発行者:特定非営利活動法人 NPOあつぎみらい21
編集長:脇本 清明(NPOあつぎみらい21事務局長)
Website: http://www.atsugimirai21.org/
E-mail: mailmag@atsugimirai21.org
編集担当:橋向 博昭
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